面白いゲームとは(4)不安と再生を描くRPGの舞台裏 【黒猫ミカエルと最後の祝福】開発体験記

だれかの“不安”が、物語になる

何かをつくるとき、いつも「誰に」「何を」届けたいのかを考えます。
『黒猫ミカエルと最後の祝福』は、Kaienの訓練生の方々、そして福祉や発達障害・精神障害に関心を持つ人たちに向けた物語です。
安心できる居場所、仲間との関わりの中で少しずつ自分を取り戻す。そんな“心の回復”をテーマにしています。

 

「不安や弱さを受け入れることが、未来へ生きる力になる」

この言葉を、ゲーム全体のテーマに据えました。

主人公は、記憶を失った黒猫ミカエル。

このキャラクターは訓練生がKaienのマスコットキャラクターとして考えてくれたものです。

この物語では、人々の“不安”をエネルギーに変え、支配を強める帝国に立ち向かいます。
それは、ただの冒険ではなく、“不安とどう生きるか”を問いかける旅です。
ミカエルのセリフには、優しさと祈りが込められています。

「そのえらんだ道が、きっと君をつよくするよ。」
「あせらなくていい。君のペースで大丈夫だよ。」

この言葉は、キャラクター作者が考えてくれた言葉です。
プレイヤー自身の心を少しやわらかくしてくれるように願いながらシナリオの中に組み込んでいきました。

 

登場人物と視点

ミカエルを中心に、兄妹のサブキャラクター「アントン」と「サラ」が登場します。
彼らはそれぞれ「不安」「依存」「希望」という異なる感情を象徴しています。

ときにぶつかり、ときに寄り添いながら、彼らは“他者を受け入れる力”を学んでいきます。サラの一言「あなたは私たちの飼い猫」は、人と動物、支配と共生の関係を静かに問いかける言葉です。

 

感情が姿を持つ世界——「幻影シリーズ」

この世界では、人の心にある“感情”が姿を変え、敵として現れます。
それが「幻影シリーズ」と呼ばれる存在です。

名称 象徴する感情 救いのかたち
孤独の幻影 悲しみ・喪失 温かさを残して消える
恐怖の幻影 罪悪感・トラウマ 自分と向き合うことで癒える
不安の幻影 集団心理・ざわめき 共に生きる選択を迫る
絶望の化身 虚無・停滞 受け入れることでしか終わらない

 

これらの幻影は、単なる“敵”ではありません。
感情そのものと向き合う存在であり、プレイヤーは倒すことでなく、理解し、受け入れることで前に進むことを学びます。

幻影たちの記録

 

孤独の幻影

「誰も私を見ない。見えているのに、いないように扱う。」
透明な影のような姿をした存在。戦ううちに、“孤独”が誰にでもあるものだと教えてくれます。

 

 

恐怖の幻影

「逃げたのは誰だ? それを見ていたのは、お前自身だろう。」
割れた仮面を持つ黒い影。 “恐怖”は過去の罪悪感やトラウマの象徴であり、逃げ続けてきた自分と向き合うために立ちはだかります。戦いのあと、プレイヤーは“恐怖”が悪ではなく、 「自分を守ろうとした心の叫び」であることに気づきます。

 

 

不安の幻影

「みんなが言ってる。だから間違いない。君もそう思うよね?」
無数の仮面がざわめくような姿をしており、集団の不安や同調圧力を象徴しています。プレイヤーは「他人に合わせること」と「自分の意志を持つこと」の間で揺れ動きます。

 

 

絶望の化身

「希望は、形を変えた不安にすぎない。」
仮面で編まれたドレスをまとい、あらゆる感情の終着点として現れます。勝利ではなく、“赦し”によって戦いが終わります。

 

心の成長を描く物語として

『黒猫ミカエルと最後の祝福』は、RPGの形をとりながらも、人間の心の動きを描いた物語です。

  • 記憶と再生:過去の痛みを受け入れながら、新しい自分を見つける。
  • 孤独と共感:「君は一人じゃない」という言葉が、心を照らす。
  • 絶望と希望:希望とは、誰かと歩き続けることそのもの。

序章には、ニーチェの言葉が引用されています。

「過去が現在に影響するように、未来もまた現在に作用する。」

この思想が、作品全体の根底を流れています。

 

おわりに

『黒猫ミカエルと最後の祝福』は、“弱さを抱えたまま生きる”ということを描いたゲームです。

どんな人にも、不安や罪悪感、孤独があります。

けれど、それらを否定するのではなく、抱えたまま歩くことが、ほんとうの強さかもしれません。

 

ミカエルの言葉のように——

「そのえらんだ道が、きっと君をつよくする。」

この物語が、誰かの心に静かな灯をともせたら。それが、私たち開発チームの“最後の祝福”です。